経営勉強会議事録について

 経営勉強会とは、ソフタスグループの経営陣や管理職者を中心に毎月グループ内で実施している勉強会です。
 本記事では、勉強会のディスカッション部分を一部抜粋して記載いたします。
 ※前記事の経営勉強会はこちら

このような方へおすすめの記事です
 ・経営管理者、またはこれから経営管理者を目指す方
 ・半導体の概要や現代日本の半導体ビジネスについて知りたい方

ディスカッション参加者

ソフタス
田口社長、廣川副社長、臼井取締役、薗山執行役員、三浦執行役員、北村執行役員、重川部長、江村部長、青野部長、廣瀬部長、宮本部長

ソフタスHD
赤坂副社長、笹本執行役員

九州ソフタス
瀧澤社長、忽那取締役、東取締役

北陸ソフタス
角丸社長、星山副社長、石井取締役

SVC
真鍋執行役員、丸山執行役員、橋本部長

ディスカッション

一般法人 Rapidus に合計 3300 億円もの助成

田口:資料が素晴らしい。わかりやすい。ただ、Rapidus をもう少し深掘りした説明があるともっとよかった。
山根:これ以上何かを知っているかと問われると、これ以上は……
田口:Rapidus の資本は現状、どうなっていますか。
山根:スタート時と変わっていません。今、経産省から 700 億円と 2600 億円の支援を受け、設立時に企業 8 社から、合わせて 73 億円の出資がありましたから、合計 3373 億円が集まっています。
田口:Rapidus のカテゴリーは。
山根:完全民間企業です。株式会社です。
田口:特別な扱いではないのですか、普通の一般法人ですか。
山根:そうです。
田口:ただ単に一般法人を支援しているわけですか。
山根:将来性があるといったところで支援しています。
田口:助成しているだけ。
山根:そうです。
田口:政府は 2021 年に Rapidus の立ち上げに際し、500 億円の出資を発表しました。最終的には 700 億円になったようですが、そういう言い方でしたから一般法人ではないと感じていましたが、一般法人ということは、ただ単に助成金を得ただけの話ということですね。
山根:そうです。支援を受けているというだけです。
田口:一般法人ということは国はノータッチということだよね。700 億円をもらっている限りはってことはあるにしても……。
赤坂:でも今年も 2600 億円も支援されてますからね。
田口:そうすると 500 億円は資本金?
廣川:いや、資本金は 73 億円で、それはそれぞれ、トヨタ、電装、ソニー、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱 UFJ 銀行が出資しています。
田口:500 億円が 700 億円になったのは、予算が増えたということですか。
廣川:それは国からの支援金であって、それを資本金に組み込んでいる訳ではない……。
田口:一般法人に合計 3300 億円も助成したのかな。それはどういうことなんだろう。法律的にはどういうことですか。そこがちょっと不思議です。法的には、どういう建て付けで、いち一般企業に 3300 億円が助成金として支払われる仕組みができたのでしょうか。
角丸:もともとは経産省の「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」が公募を行った「ポスト 5G 通信システムの基盤強化に関する先端半導体開発委託事業」に応募し、11 月 8 日に採択されました。これにより、政府から 700 億円の支援を受けることとなったようです。
田口:そして追加支援で 2600 億円も?
廣川:結局、研究開発費みたいな感じでしょう。
田口:予算が出ているのはわかりますが、なぜ、それだけの予算が、いち一般民間企業に出せるのか、どういう法律の建て付けで出ているのか、と思ったものですから。だって、今の角丸さんの話だと、Rapidus は 100%民間企業だから、国は全く関係ないよね。
廣川:国の事業の委託事業者として Rapidus を選定したと……。NTT もよく委託研究ということで予算がついて研究している……、それと同じじゃないですか。
田口:だって NTT はもともと国の資本で、半官半民企業ですから……。
廣川:それくらい力を入れているということでしょう。
田口:逃げられたらそれまで、「やめた」と言われたら……。
廣川:三菱の MRJ※1 みたいに……。
田口:なぜ、こんなことを聞いたかというと、一般法人で100% 民間出資だという話であれば、Rapidus の行く末に「もう諦めます」ということもあり得るということですね。そんなところに 3300 億円の支援というのが、ちょっと不思議ですね。
瀧澤:ちなみに MRJ は政府から 500 億円を提供されていて、事業を停止した瞬間に 500 億円を返還しています。
廣川:なるほど。でも考えてみたら、500 億円くらいで飛行機を作ろうと思っているのが、大きな間違いで……。
田口:そういうこと?:事業停止したら 3300 億円も償還義務があるという契約をしているのでしょうか。
廣川:かもしれないですね。
臼井:失敗した時に、償還できるかどうかは別として。
田口:使い切ってやめるということもある。頑張ったけど駄目でしたと言えば……。で、なんでしたっけ、ディスカッションの議論は。

※1 MRJ
三 菱 重 工 業 は2023 年2月、連結子会社の三菱航空機が取り組んでいた「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発事業から撤退すると発表した。同社が、国産リージョナルジェット機の事業化を決定し、三菱航空機を設立したのは、2008 年。最初の顧客となる予定だった全日本空輸への機体の納入を2013 年に始める計画だった。
しかし、2009 年に設計変更を理由に納入延期すると、その後も検査態勢の不備や試験機の完成遅れなどで6度の納期延期を繰り返した。
三菱重工業が約1兆円の巨費を投じ、経済産業省も約500億円の国費を投入し開発を支援した。しかし、国産初の「日の丸ジェット旅客機」の開発は、一機も納入されることなく中止された。

支援するなら可能性はあるが

山根:Rapidus は成功するか。
田口:「思います」とか、「思いません」とか……。1 つの肝になるのは、国がどういう立ち位置なのかということです。だから法人格が気になりました。ただ今の話を聞くと、「成功する」とは思いづらいですね。いつでも責任放棄できる状況では、それを肝入りとは、とても思えません。ただ、いち民間企業に助成金を出しましたが、国が行った事業ではないので、失敗しても政府は責任を取りませんという感じですから。
赤坂:でも、それにしても、ちょっと 3300 億円は……。
田口:償還義務があれば関係ないでしょう。
赤坂:でも、償還能力から言えば……
田口:償還義務があっても、このための事業として 3300 億円を使いましたと認められれば、実際は 3300 億円を返さなくてもいいんですよ。しかも、国としては、国の事業ではありませんという逃げ口上を使えます。経産省の管轄で事業をやる、別の法人でやる、例えば公益法人でやるというのであれば、肝入りだねという気がしますが……。
廣川:ただ微妙なのが、例えば、技術的なことも含め、他の企業と連携していかないといけないという時に、国の公益法人にするとやりにくいというのはあります。
田口:実際はできないか。公益法人だったら市場が荒れるし、実際自由競争の世界ではなくなるので、まず予算を付けるのも大変だろうね。ラピダスが成功するかどうかの問いに対しては、微妙な……。
廣川:でも、そうは言いながらも、自民党政権がこのまま続けば、経産省は半導体に力を入れていくのかなと思います。今はもう、日本が半導体にかかわることに対して、アメリカの制限もなくなってきているわけですから。
田口:あとはコンセプトだね。目の前の GDP を追いかけていくための事業なのか、長期的視野に立ち、将来に向けての投資なのか……。政治家がちょっとなんか信用できないかもな。
廣川:2 ナノとか、そういうレベル感ではなくて、要はもっとその先で儲けていくということはあり得るでしょう。
田口:あとは国内市場の話。国内に市場がない時点で、大きな誤りだよね。
山根:国内にも市場がないし、海外でも結局 TSMC 以外のところに頼む必要があるのかという……。
田口:そこだよ。そういう損得勘定でやるかやらないかだよね。半導体は研究開発と同じだから、売れるか/売れないか、市場があるか/ないかにかかわらず支援するといったら、これは肝入りで、ひょっとしたら化ける可能性があるけれども、市場はどうなんだろうとか、国内事情はとか、そういうことで取り組んでいる以上は、あまり期待できないかな。基本的にはマーケットとか、将来儲かるか儲からないかとか、そういうことは無視して、結果も問わず、とにかく研究し、開発しましょうというくらい肝が座った話で政府が進めているのであれば、逆に期待値は上がるけれども。

30 年前に諦めなかったら、日本が今の TSMC

山根:日本が半導体の国家プロジェクトで失敗してきた理由を「何か市場にまったくフォーカスせずに研究してしまい成功しなかった」という考えがあるらしくて……。
田口:いや、それはどういうことか知っていますか、日本が 30 年前に半導体を諦めたこと。
あのまま諦めずに 30 年やり続けていたら、日本は今、トップシェアとなっていますよ。
諦めずに 30 年間の投資し続けたとしても、ここ 10 年で全部回収できてましたよ。そのくらい肝入りでやるかって話ですよ。だから、今、山根さんが言った政府の考え、そういう失敗があったからと教訓にしてしまってますよね。そういう失敗があったから「何が何でも継続します」という考えならわかるけど、「だから、様子を見ます」というのは、日本の経済成長できていない一番のマインドですよ。それが、世界で負けてる理由ですよ。
廣川:30 年前に比べると、高集積回路のシェアは爆発的に増えてるし、先ほど EV 車などは、そこまで高集積回路を求めないとありましたが、今後、例えば完全自動運転を実現するするためには 2 ナノが必要ですよ。今はそこまでいらないかもしれないけれども、ゆくゆくは必要ですよ。だからマーケットは今後、減ることはないと思いますよ。
田口:マーケットがあってもなくても、やるかやらないかだよ。その事業が先細るとか、将来はゴミになるとか関係なく、今の予測値でやるべきかやらないべきかということを、日本は考えられなかった結果が今なんです。
廣川:あとは、世界のトップシェアになってはいけない、トップになるとアメリカから規制がかかるから。
山根:じゃあ、うまくいかない可能性のほうが高いという感じですか。
田口:今の感じだと、どうなるかわからないけれども、期待値が高いかといえば高くない。
廣川:Rapidus が成功するかというところで言えば、成功してほしい。日本人としてはとりあえず成功してほしい。
田口:だから、国家プロジェクトにしろよという話だと思うよ。だってこれだけ立ち遅れてるんだから。
廣川:極論ね、TSMC と同じくらいの規模で、千歳に工場ができれば、それだけで、例えば
その地域の活性化だけで相当な需要が出てきますし……。
田口:いや、どちらかというと今の政治家はそっちしか見ていないと思います。将来の話ではなく、次の選挙のためのことしか考えないと……。
山根:今までそんな考えをもったことはありませんでした。政治のことまでは……。
廣川:今の政権は役人の言いなりだからまだいいかな。
田口:でも、役人の言いなりだったら、役人はこけたくないから、絶対やりませんよ。だからそれこそ政府主導でないと、できないですよ。それくらい Rapidus は重要な課題です。日本の経済成長に関わる重要な問
題だけど、「何か市場にまったくフォーカスせずに研究してしまい成功しなかった」という考察を経産省が出してる時点で……。顧客を無視してももっと続ければよかった、途中でやめてしまったのが大失敗だったという考察が出てくれば、今度は期待できると思えるけれども、と思いました。
廣川:そのときに失敗した人たちはもういないからね。
田口:民間人はみんな「なぜやめたの」「なぜ東芝を支援しなかったの」と疑問に思ってますよ。
廣川:疑問だよね、本当ね。材料はトップシェアでしょう。
山根:そうです。
廣川:材料はトップ、製造装置も 2 位なのに、製造はいけてないのは……。
田口:簡単ですよ。人が関わるところを削除したからでしょう。装置は作って売ればいいけど、製造は人を雇わなければいけないからコストかかるのでやめましょうというのが始まりでしょう。儲けることだけ考えて、製造を海外に委託したから、技術が流出して、それが、今、台湾や韓国が半導体を作れる理由ですからね。あのまま 30 年続けていれば、日本が今のTSMC ですよ。
廣川:そうだよね。製造装置も 2 位だから……。
角丸:2 位の位置がちょうどいいということですね。
廣川:アメリカに戦いを挑むとやられますからね。しかし、今、アメリカも、結局、中国系だとか、台湾系だとか、いわゆるアジアの危ない地域が主戦場になっているから、それだったら日本のほうがまだいいと思っているでしょう。
田口:これまでは私のごく個人的な意見として述べました。議論はそれだけですか。
山根:ソフタスは半導体とどのように絡めるか、議論したいと思ったんですけど……。
田口:ソフタスとの関わりは強いよ。Rapidus が本当に君臨すれば、我々も潤うからね、連鎖的に。議論だから、他の人の意見を聞いておこう。Rapidus が成功するかしないか、北村さんの見解は。
北村:難しいですね。成功してほしいと思いますけど、今の時点では難しいと思います。理由は「顧客をどのように開拓するのか」「技術的に本当にうまくいくのか」というところが見えないからです。ふわっとしたところに突っ込んでいく感じで、厳しいと思います。
田口:期待はするけど失敗すると思ってるんだね。
重川:以上で、本日の勉強会を終わります。