経営勉強会について

 経営勉強会とは、ソフタスグループの経営陣や管理職者を中心に毎月グループ内で実施している勉強会です。
 本記事では、その勉強会の講義内容を一部抜粋して記載いたします。

このような方へおすすめの記事です
 ・経営管理者、またはこれから経営管理者を目指す方
 ・ジョブ型雇用についてや、日本の雇用形態の課題について知りたい方

経緯・目的

 昨今、イノベーションが日本で起きにくい理由の一つとして、人材の流動性が低いことが挙げられています。欧米式のジョブ型雇用にシフトチェンジすべきだという声が多く聞こえてきます。一方で、ジョブ型雇用は日本に適応できない、そもそもジョブ型雇用はもう古いなどという意見もあります。
 日本特有の課題があることは明らかであることから、日本に適した新しい雇用形態を生み出す必要があると考えます。そのため、現状の課題や、日本と海外の違い、今後の動向などの観点から最適な雇用形態は何かを議論することに価値があると考え、本テーマとしました。

イノベーションを生み出すことができる雇用形態とは何か
『 新たな価値を生み出すうえで、日本における最適な雇用形態は何かを考える 』

ジョブ型とメンバーシップ型

ジョブ型とメンバーシップ型の比較

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用について、まず採用している国に関しては、メンバーシップ型雇用は日本だけで取り入れており、日本以外のほぼすべての国は、ジョブ型雇用です。
 基本的にジョブ型雇用は、職務に対して適用できる人をつけると考えます。逆にメンバーシップ型雇用は、まず人を採用し、見合った職務を与える形になります。
 職務に関しては、ジョブ型雇用は採用時に具体的に明記し、そこに記載されている以外のものは基本的には命じられないとなっています。メンバーシップ型雇用は、不特定であり、会社の都合によって決まる場合が多くなっています。

太田 肇 (著)『「自営型」で働く時代 ― ジョブ型雇用はもう古い!』をもとに作成

 教育に関しては、ジョブ型雇用は、基本的に会社が用意することはありません。アメリカでは基本的に自己責任。ドイツでは職務ごとに存在する労働組合が育成を行うとのことです。メンバーシップ型雇用は、新卒社員を一斉に採用し、職務を従事できるように教育していく流れが基本ですので、教育は会社が用意するものとなっています。
 賃金の根拠については、ジョブ型雇用は市場の価値、市場基準で、メンバーシップ型雇用は基本的に内部基準とです。
 労働組合に関しては、ジョブ型雇用は職務ごとに存在し、メンバーシップ型雇用は、企業ごとに存在しています。
 人材流動性に関しては、ジョブ型雇用のほうが高く、メンバーシップ型雇用の方が低い。
 雇用の保障に関しては、ジョブ型雇用に関しては低く、メンバーシップ型雇用の方が高い。
 雇用の保障に関しては、アメリカは特にルールがなく、切りやすいといえますが、それ以外の国についても、契約時の職務がなくなった時点で、雇用を解除できるルールがあります。日本のメンバーシップ型雇用は、職務に限定してない状態で採用しているので、なかなか人を切ることができず、人材の流動性が低いといえます。

なぜメンバーシップ型ではだめなのか

 では、なぜメンバーシップ型雇用では「だめ」と言われるのか、その理由は大きく四つあり「人材の流動性が低下すること、無駄な人件費を投入してしまうこと、専門性が養われにくいこと、社員の自立性が育ちにくいこと」が挙げられます。ジョブ型雇用はこれらの課題を解決すると期待する意見もあります。

太田 肇 (著)『「自営型」で働く時代 ― ジョブ型雇用はもう古い!』をもとに作成

ジョブ型を日本に取り入れるうえでの課題

 上記の表にまとめた理由から、メンバーシップ型雇用ではだめだと言われており、ジョブ型雇用への移行が強く支持されています。
 ただし、日本がジョブ型雇用をすぐに取り入れない理由として、下の表に示した通り、さまざまな課題があります。

太田 肇 (著)『「自営型」で働く時代 ― ジョブ型雇用はもう古い!』をもとに作成

 大学のあり方ですが、日本では就職するためにとりあえず大学に行くという考えが根強く、また、講義についても、受け身系の講義が多く、自律性が育ちにくい環境になっています。一方、海外は、講義における発言が成績に影響することもあり、自律的に講義に参加することが求められている傾向にあります。
 採用までの流れですが、アメリカでは非正規雇用から始め、スキルを磨き、実績を重ね、雇用を目指すのが主流です。ドイツでは職務ごとに存在する労働組合で育成が行われ、それらを経て雇用される仕組みになっています。以上のことから、ジョブ型雇用を日本で採用してしまうと、自律的に自身を育てる面が定着していないため、学業卒業後の就職といった流れの構築に課題が残る状況になっています。
 またジョブ型雇用においては、ジョブを明確に定義する必要がありますが、メンバーシップ型雇用を採用している日本では、ジョブを定義するノウハウがないといわれており、適応に時間がかかる可能性が高いといわれています。
 労働者からの批判ですが、年功序列の意識が強いメンバーシップ型雇用の日本が、急にジョブ型雇用を導入し、ジョブによって給料が変わるとなれば、これまで会社の都合で職務を与えられてきた日本の労働者にとって、給与格差が生まれることに対する不公平感が出ることは避けられません。
 解雇のハードルですが、ジョブ型雇用が主流の国では職務がなければ解雇が可能ですが、日本では、法律が厳しいこともあり、簡単に解雇できません。
 このような理由からジョブ型雇用を日本に取り入れるのは課題があり、ジョブ型雇用が進んでいない状況になっています。

イノベーションを起こすための人・組織

ドラッカー理論から考える

 ドラッカーの書籍からイノベーションを起こすために必要な人・組織の考え方をピックアップし、それらに対してジョブ型、メンバーシップ型がどう考えられるかを以下の3つの項目で考察します。

①明日の経営管理者の育成
②自己管理による目標管理
③企業家精神

明日の経営管理者の育成

 企業の成長には未来を担う経営管理者(マネージャー)が必要不可欠であり、企業はそれを育成する必要があります。

自己管理による目標管理

 社員が高いパフォーマンスを発揮するためには、上司によって管理されるのではなく主体的・自律的に取り組む姿勢が重要とされます。

企業家精神

 企業家精神※1とは、不確実性のあることに対してリスクを冒し、挑戦し、成功させる意思を持ち、行動に移すこと。企業家社会においては継続学習を必要とするため、その習慣を身に着ける必要があります。

※1  企業家精神
アントレプレナーシップ(entrepreneurship)の日本語訳であり、新たな事業を創造しリスクに挑戦する企業家の姿勢および活動を意味する。ベンチャー企業やスタートアップ企業の創業者を指し、起業家精神と表記されることもある。
企業家精神は、経済学者のShumpeter, J.A.( シュンペーター)により、市場におけるイノベーションの担い手として企業家の重要性が指摘され、新結合と創造的破壊の原動力として概念が提起された。
さらに、経営学者のDrucker, P. F.(ドラッカー)が、企業家精神は経済の領域に限定されるものではなく、人間の実存にかかわる活動を除くあらゆる人間活動に適用されると論じたことで、経済学、経営学、社会学、心理学など多様な領域での研究に発展した。
現在、個人の内面構造よりも観察可能な行動体系を対象とした行動理論によるアプローチが行われるようになり、研究範囲もベンチャー企業やスタートアップ企業の創造プロセスだけではなく、大企業まで拡張されている。そこでは、トップマネジメントだけでなく、ミドル・ロワーマネジメントにおいても企業家精神の重要性が認識され、企業内企業家、変革エージェントとして、組織のなかでイノベーションや変革の行為主体として企業家的に振る舞う役割が期待されている。
前例のないビジネス課題や複雑化する社会課題に対して、新たな価値を創造し、既存社会・組織に変革をもたらす人材の育成も命題であり、アントレプレナーシップ教育もすすめられている。

現代に必要とされる人・組織の考え方

高度 IT 技術の進歩・顧客ニーズの多様化への対応

 AIなどの進歩により、これまで当たり前にあった仕事がなくなる可能性が高く、反対に新しい仕事が生まれ続けていく可能性が高いといわれています。高い専門スキルを有することや、人と仕事を柔軟に組織することが求められています。
 ジョブ型雇用においては、専門スキルは身につきやすいのですが、職務を明確に定義する性質上、人と仕事を組織する際のスピード感が乏しいといえます。
 メンバーシップ型雇用においては、人と仕事を組織する際の柔軟性は高いのですが、専門スキルを有した人材確保が困難です。
 よって両雇用形態とも「高度IT技術の進歩・顧客ニーズの多様化への対応」が難しいと思います。

働き手の変化

 現在、「人口動態」や「キャリア観、働き方の多様化」といったところの変化があります。
 ジョブ型雇用においては、キャリア形成においても自己で行わなければいけないものですので、働き手の変化に対応しやすいといえます。
 メンバーシップ型雇用においては、定年や年功序列のように、年齢を基準にする雇用なので、シニア人材の活用が比較的不向きだと考えれます。一方、高齢化が進むことによりシニア人材の活用に焦点が当てられていたり、また、自身でキャリアを形成したいという意志が強くなっている傾向が日本でも高まっているため、年齢ではなく実績をもとに雇用するシニア活用については比較的容易になりつつあると考えられています。
 キャリアについては、企業側が基本的には要求する形となっているので、適用しにくいのではないかと考えられています。

まとめ

 両雇用形態を比較するとジョブ型雇用が優勢ではあるものの、ジョブ型雇用においても課題はあり、人的資源を最大限活用するために最適な雇用形態とは言い切れないと考えます。

新たな雇用形態

新たに提言されている2つの雇用形態

 ジョブ型雇用の起源はメンバーシップ型雇用より古い、ジョブ型雇用では現代に適応しきれないなどの観点から、新たな雇用形態が提言されてきています。

スキルベース型雇用

 IT技術の進歩により業務が急激に変化していき、職務記述書を書いてもすぐに陳腐化してしまうことが予測されます。それに対応するために考えられたのが、スキルベース型です。
 ジョブ型雇用は、ジョブに対して必要なスキルを持った人をあてはめていましたが、ジョブをさらに細分化してスキルごとに人をあてはめる考え方がスキルベース型雇用です。個人が保有するスキルと仕事をマッチングさせるといったところが、仕事に人をあてるジョブ型雇用よりも、メンバーシップ型雇用との類似性が高く、日本では取り組みやすいと考えられています。
 しかし、職務をスキルに分解することが人の手では困難ではないかともいわれており、AIなどのデジタル技術の発展がなければ、実践が難しいといわれています。

スキルベースの考え方(出典:日経BPを元に作成)

自営型雇用

 自営型雇用は、フリーランス的に企業に所属するといった形態で、日本の労働者に不足している自律性を養い、高いパフォーマンスを発揮できる、最適の雇用形態であると著者は主張していました。
自身の裁量によって仕事ができることから、ワークエンゲージメントが増加し高パフォーマンスが期待できます。
 ただし、フリーランス的にまとまった仕事をするという考えであると、これができる職種は限定的であること、将来的にフリーランスとなる可能性が高く、人材に対して企業が教育を行う価値があるのかなど、いくつかの懸念点もあります。

まとめ

 新しく提言された雇用形態においても、先述した表にあてはめてみました。新たな価値を生み出しイノベーションを実現する雇用形態はまだ正解がない状況といえます。

 新たな価値を生み出す人・組織を形成していくためには、一般的に適したといわれる雇用形態を取り入れるのではなく、それぞれの企業の特性・特徴にあった雇用形態を導入し、最適な活用方法を見出す必要があるのではないかと考えました。(例:スキルベース型を導入し、社員の挑戦志向、自律性を身に着ける環境を用意する等)メンバーシップ型雇用、ジョブ型雇用、スキルベース型雇用、自営型雇用といろいろ雇用形
態を紹介しましたが、やはり網羅的にすべてイノベーションを起こすための人と組織の条件をカバーするものは、今のところ出ていないという考えに至りました。

 ディスカッションしたい部分は、そもそもジョブ型雇用といったところが、日本に適応していけるのか、また、さまざまな雇用形態を取り入れる上での活用方法はどうなのかなどを議論できればいいと思います。時間があれば、それらをもとにソフタスは雇用形態についてどのように取り組んでいくべきなのかといったディスカッションできればいいと考えています。
 新しい雇用形態が次々に登場しますが、新しい形態を採用することがいいわけではなく、組織がいいものになるための最適な雇用形態はどういったものなのか、認識を合わせたいと考えています。