経営勉強会議事録について

 経営勉強会とは、ソフタスグループの経営陣や管理職者を中心に毎月グループ内で実施している勉強会です。
 本記事では、勉強会のディスカッション部分を一部抜粋して記載いたします。
 ※前記事の経営勉強会はこちら

このような方へおすすめの記事です
 ・経営管理者、またはこれから経営管理者を目指す方
 ・ジョブ型雇用についてや、日本の雇用形態の課題について知りたい方

ディスカッション参加者

ソフタス
田口社長、廣川副社長、臼井取締役、三浦取締役、薗山執行役員、北村執行役員、

重川部長、江村部長、青野部長、廣瀬部長、宮本部長、山根部長、那須部長
(見学:新入社員)

ソフタスHD
赤坂副社長、笹本執行役員

九州ソフタス
瀧澤社長、忽那専務取締役、東取締役

北陸ソフタス
角丸社長、星山副社長、石井取締役

SVC
真鍋執行役員、丸山執行役員、橋本部長

ディスカッション

日本でジョブ型雇用は難しい

田口:ディスカッションの前に、冒頭の「ジョブ型とメンバーシップ型」については、古くて、時代錯誤の感が否めません。
山根:2023 年 11 月初版の本などを参考にしていますが、内容が古いですか。
田口:全然、時代に合っていません。うちもそうですが、もう 10 年ほど前に、メンバーシップ型雇用をジョブ型雇用に変えることは不可能だと認識しました。それは、日本の場合は労働基準法の縛りがあるからです。もともとジョブ型雇用から始まり、それを組織化するときにメンバーシップ型雇用に変え、それをまたジョブ型雇用に戻すとどうなのかという議論のことを指していると思うけれども、もうそんな議論はとうに通り越して、今はメンバーシップ型雇用しかできない中で、いかに専門職を設けるかというところに至っています。例えば各企業が取り組んでいるのは、能力給、能力主義を導入するとか、要は経過年数よりも能力を高く評価する術を探っているのが現実です。
角丸:ただ、採用系の会社のホームページでは、まだこの説明が掲載されています。
田口:私には時代遅れに感じます。2000 年代に入り、メンバーシップ型雇用ではあるけれども、どちらかというと能力を評価しようという方向にシフトして、能力評価、能力給にウエイトを重くしていったという歴史があります。それが日本でできる目いっぱいだと思っています。
廣川:社長が言うように、能力給で評価していく流れにあると思いますが、事実上、まだまだ資料のような説明が通用するのが現実ということでしょう。
田口:今の日本では、メンバーシップ型雇用以外には選択できないという縛りがあるから、その中でできる工夫が能力評価です。ソフタスでは、年を重ねるほどに給料が上がっていくのではなく、31 歳になると必然的に能力評価が上回る仕組みを導入しています。そう考えると、資料の冒頭の内容は、少なくともソフタスグループにはあてはまりません。
山根:当社は年齢ではなくスキルで評価していると思っていましたが、一般的な情報をみると資料で記載した通りだったので紹介しました。気になったのは、日本では、ジョブ型雇用の導入が本当に無理なのか、そのことに結論が出てるとは知りませんでした。

グループ連携はイノベーションを起こすための仕組み

田口:基本的にジョブ型雇用は無理ですね。唯一考えられるのは連合体を作ることです。だからうちがやろうとしているのは、グループ会社それぞれの専門職です。ジョブ型雇用にすると、繁忙期の対応が難しくなります。そこで、「忙しいときに人材を確保する→暇になると人材が余る→会社としては別の業務に流したいけれども、ジョブ型雇用の人たちは別の仕事をやらない→それをリカバリーするために、グループごとに専門性を高めていけば、相互で稼働率を上げられる」というのが、我々が考えているグループ化です。各会社が機能会社となり、東京は◯◯が強い、北陸は◯◯が強い、SVC は◯◯が強い、九州は◯◯が強い、それぞれが強みを持つことで、相互で補完し合えば稼働率を上げることができます。つまり、会社自体がジョブ型に取り組む方式を導入しているのが、ソフタスグループの取り組みです。
山根:会社自体がジョブ型……?会社の中でジョブ型の動きをするということですか。
田口:会社自体が専門会社ということです。例えば今年は暇だが、来年からまた忙しいという場合、この暇な時期に、我々が持っているスキルを必要としてる会社はありませんかということを、グループで連携し、技術を持ち合い、補完し合うというのが、グループ連携のもともとの発想です。もちろん今、それが完全に構築され、機能しているわけではないけれども、目指しているのはそこです。
山根:専門性を高めることによって、顧客が要望する専門性のある人材を提供する、顧客に対してもジョブ型的な提供ができるようになるということですか。
田口:そういうことです。
山根:そういう発想だったのですね。
田口:ただ、会社は、雇用を切ることはできないから、一年中コンスタントに仕事を作る方法を考えなければいけません。
山根:ジョブ型雇用について、どのように考えているのか気になっていたので、勉強になりました。
田口:日本社会は、労働基準法により、メンバーシップ型雇用以外の採用方法は導入できません。よって、専門性が深まることはありません。専門性が深まることがないということはイノベーションが起きません。だから日本ではイノベーションが起きません。もちろんソフタスグループでも、今あるルールの中で、工夫して、専門性を高めて、少しでもイノベーションに向かう仕掛けを作ろうと取り組んでいますが、社会全体をみると、イノベーションが生まれない仕組みになっているといえます。欧米でイノベーションが起きて、日本でイノベーションが起きない違いは、そういうことです。
山根:今の法律だと日本からはイノベーションが生まれない……。
田口:生まれないは言い過ぎですが、間違いなく生まれにくいと言えます。なぜならイノベーションのベースは深い知識と高いスキルを持っている人です。そういう人材が誕生しにくい雇用制度が問題なのです。それから学校教育の問題があります。自発的に動けない、発想力を生かさない、感性を育てない、現状の学校教育では、イノベーションは生まれにくいでしょう。つまり日本は、イノベーションを生まない教育制度になっているし、イノベーションを起こすような仕組みになっていない社会・会社組織になっています。イノベーションが起きない仕組みの中で、我々はそれでも工夫してイノベーションを起こそうとしています。グループ連携をしつこく言うのは、そのためです。ただ、専門性を高めると別の仕事ができなくなるから、ときによっては干される可能性があります。そのときの対応が管理できるような仕組みを構築することにより、安心して専門性が高められるのではないかなど、そういう工夫をどこの会社もしていると思います。

ジョブ型雇用導入企業の実情と、リーマンショックの顛末

山根:ジョブ型雇用を導入したという企業例がありますが、あれは、どういう感じですか。
田口:ジョブ型雇用を導入すると宣言しても、労働基準法の縛りがあるから、現実的には、ジョブ型雇用になっていないのが実情でしょう。たとえば新薬の開発を行っている製薬会社のように仕事が永遠に続くようなところであれば、ジョブ型雇用と同等の仕組みになっているかもしれません。
角丸:ジョブ型雇用とジョブ型人事制度の話をごっちゃにしているのでは。たとえば富士通などがジョブ型雇用制度を導入しましたといっているけれども、人事制度を変えただけだから……。
山根:そうですね。成果報酬型を導入したという感じですね。
廣川:日立も、まっさきに導入しました。ただ、ジョブ型雇用とはいえないような、かなりグレーな形態でした。また、タニタのように、社員を個人事業主にしてしまうという方法もあります。
瀧澤:この資料の最後の自営型雇用ですね。最近、自営型雇用が少しずつ増えてきているようです。全体的にも、人材の流動性は高くなってきている感じはあります。
角丸:結局、コロナウイルスの影響でリモートワークになり、会社に属さなくてもいいという話になって、働き方に変化が見られるようになりました。
田口:すべて苦肉の策ですよ。知恵を絞って生み出した例です。
廣川:保証は何もないですよ、その代わり、契約金額は、高めに払いますと……。
田口:いい例が 2008 年 9 月に起きたリーマン・ショック※1です。それまでは IT 業界の IT 人材は 110 万〜 120 万人いましたが、2009 年のリーマン・ショックを境に 70 万人にまで減少しました。リーマン・ショックが落ち着いても、その人材はなかなか戻ってこず、取り戻すのに 10 年以上かかりました。なぜならリーマン・ショックで他業界へ再就職すると、なかなかやめづらい、リーマン・ショックが落ち着いたからといって簡単に IT 業界に戻りづらい、そういう社会だからです。終身雇用みたいな、何となくそんなカルチャーが現代人にも残っているという、本当にいい例です。
山根:IT 業界以外のところで働いて、もうそのままそこにい続けて戻ってこないという……。
田口:簡単にやめられない、やめちゃいけないという意識も強い、やはり 3 年はいないと、とか……。
廣川:リーマン・ショックはそれだけではありませんでした。そこから IT 投資の抑制がずっと続いたという問題もあります。だから戻らなくても、ある程度致し方ない側面もありました。
田口:でも IT 投資が始まってからも人材不足がずっと続いているのは、需要があっても戻れないというカルチャーの問題でしょう。
廣川:そこはそうですね。

※1  リーマン・ショック
リーマン・ショックとは、2008 年 9月15日 に 米 国の投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したことをきっかけに、世界的に起こった金融危機を指します。
サブプライム・ローン(低所得者向け住宅ローン)問題に端を発し、その影響は瞬く間に世界中に広がりました。破綻前に1万2,000円台だった日経平均株価も、1ヵ月後には6,000 円台にまで下落し、その後4 年ほど低迷を続けました。

ソフタスグループの雇用形態は

赤坂:山根さんがこの題材をテーマにしたのは、日本でもジョブ型雇用が可能ではないかと考えたからですか。
山根:それはないです。
赤坂:そうではないんですね。ソフタスグループがどのような取り組みをしているのか、どこに向かっているのかということも理解していますか。
山根:メンバーシップ型雇用の中でもアレンジを加えているとの認識です。今回のきっかけは、単純に BCG(ボストン コンサルティング グループ)の『経営の論点 2024』を読んだときに、スキルベース型雇用が紹介されていて、それがメンバーシップ型雇用に近いので、もしかしたらソフタスに導入できるかもとの感じがあり、テーマにしました。
赤坂:テクニカル的な部分は置いたとしても、今の分類で考えると、今は、限りなくスキルベース型雇用ですよ。ソフタスグループが取り組んでいるのは……。
田口:本来であれば、IT 業界はジョブ型雇用がすごく合っています。
山根:本来はそうです。ただできない……。
田口:ソフタスが一回導入したのは、ソフタス内で就業規則を複数持つやり方です。でも、結局は、一つの仕事がなくなれば、もう一つの仕事に移ってくださいとなるわけ、やめてくださいとは言えないから。
山根:解雇できないですからね。
田口:そこが一番の問題。それは企業側にとっても大変ですが、実は、働く側にとっても不利といえます。日本の場合は、スキルを高めて賃金の高いところを目指すというよりも、ずっと長く安定して働きたいという人がすごく多い。そういう意味で働く側にとっても不利なんです。ただ、正直に言うと、もし欧米で、このメンバーシップ型を採用したら、たぶん大人気になります。アメリカ人がメンバーシップ型雇用で雇われたら働かないでしょう。日本人だから、このぬるい方法でも一生懸命働くのですよ。
廣川:そうですね。
田口:だから、ある意味、メンバーシップ型雇用が成立しているのは奇跡に近い。それでもみんな一生懸命働くのは、日本だけだといいます。日本だけで起きる奇跡なんです。日本人の元来の勤勉資質が成立させている奇跡です。ただ、国際的競争力は弱くなる。それが今の日本経済の課題でもあります。
山根:人が流動的に動いたほうがイノベーションが起きやすいみたいな……。
角丸:能力のある人に能力がある分だけの収入を渡せるという仕組みではないから、能力があっても、いくら頑張っても収入が上がらないとなれば、能力を発揮しようとしないし、人材が育ちもしない、それが今起きている問題です。

時流に合った戦略を採用したかどうか

山根:ドラッカーの IBM の物語の中で、IBM は人材をきらなかったからこそ……という紹介があります。
角丸:あれは日本じゃないから。
山根:海外だからこそ……。
角丸:そうだし、あの時代のあの雇用の形だとか、働き方だとか、それこそ労使の関係性だとかが、今と違うから。
田口:それが落とし穴です。ドラッカーの一番の問題は、時代が違うということです。現実、IBM がどうしたこうしたというのは、今はまったくそれが参考にならないというか、学習してはいけないところです。
角丸:いや、学びはありますよ。
田口:だってその後の IBM は、1991 年に 1 年間で 4 万人を解雇して大復活しましたから。
角丸:それは後の物語。あの当時はリストラしない取り組みを行ったからこそ、あの瞬間伸びたのは間違いないから、要は、チャレンジをしなければいけないという話。
廣川:IBM は日本でも、ばんばんリストラして、労基に訴えられてます
田口:IBM JAPANね、『巨象も踊る』(ルイス V.ガースナー Jr. 著)を読んだほうがいいですよ。要は、雇い続けたから生き残ったケースもあるし、リストラしたから生き残ったケースもある。時流に合った戦略を採用したかどうかという学びです。

新入社員の感想

新入社員:ジョブ型雇用ではないからイノベーションが起きにくいという話がありました。日本の勤務体系において、派遣社員や契約社員は、ジョブ型雇用に当たると思います。であれば派遣社員や契約社員をたくさん採用すれば、イノベーションが起こるのではないかと感じました。
山根:やはりみんな正社員になりたいから……。
一同:そうじゃないでしょう(笑)。
田口:今の話は確かに成立します。でも実際はなかなか成立しません。それはメンバーシップ型雇用という牙城があり、その中にある派遣社員だからです。今から数年前に、同一労働、同一賃金という問題があり、それが大きな壁になっています。派遣社員はスキルがあるので、それこそ派遣社員のほうが圧倒的に賃金が高いことも起こりえるはずです。ところが、企業はメンバーシップ型雇用を守るために、派遣社員の賃金を社員より上げることはありません。
廣川:そうすると日本の文化における契約社員や派遣社員の人たちが、イノベーションを生むほどのモチベーションを持っているかとなると、なかなか難しい……。
新入社員:今までの研修でも、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用を学びましたが、今回新たに自営型雇用とかスキルベース型雇用を、研修の枠を超えて学び、しかも生の声でディスカッションを体験でき、文章化されたものを読むだけではわからない雰囲気を感じることができ、参加して、とてもよかったと思っています。
新入社員:初めて参加させていただいて、本当に刺激を受けました。私も親に「正社員じゃないとだめだ」「安定していないと不安だ」と言われていました。しかし自分の中では「本当にそうなのかな」と思っている部分があり、今日それが解消されたという気持ちになりました。
田口:じゃあ、やめるということじゃないよね。
一同:(笑)
新入社員:決してやめませんが、今、学校でも、個別最適な授業と言いながら、誰も取りこぼさない授業を目指しており、個々の能力をそれぞれ高めていくのが難しいと感じていました。その日本の国民性が、イノベーションを生むような人材を育てないと感じました。
田口:欧米では小学校から落第もあるし、飛び級もあるけれども、日本ではありません。みんな 1 学年ずつ上がっていくから、それを護送船団方式*1 といいます。
角丸:レベルを一番下に合わせるってことだから、飛び抜けていいものは生まれない、それは教育の問題です。
廣川:日本でイノベーションが生まれないのは、そういうところもありますね。
田口:学校教育も、社会の仕組みも、ちょっと変なやつは生きていけない……。
角丸:勉強会の資料にあったように、戦後、日本を発展させるには、その方法がちょうどよかったということもあります。
新入社員:教育の部分から変えていかなくてはいけないということですか。
田口:そうだと思います。子どもが社会に出た瞬間から、これまでの常識みたいなものを植えつけていく時点で、イノベーションは、もう……。昔は左利きの人はみんな右利きに直された時代もありました。今はそんなことはないけれども、昔はそういう時代だから、その時点で個性は生かされません。去年の全国の小中学生の不登校率※2は、ものすごい数字になっています。決められた型に入らなかった人が不登校になっているだけで、不登校になっている人は実はイノベーターになる可能性があるほどです。にもかかわらず、どちらかとういうと「不登校の人はだめだ」「コミュニケーションがうまくとれない人だ」というレッテルが貼られます。イノベーションが起きる教育ができていません。
新入社員:教育部分の影響はかなり大きいと思っていて、海外では、大学に進むのか、職業能力を身につけるところに進むのか、考える機会が多いので、ジョブ型雇用に結びつきやすいと思います。しかし、日本でジョブ型雇用を導入するとなると、新卒採用が難しくなるのかな……。私は文系大学出身で、未経験で入社したのですが、ジョブ型雇用になると、そういう人たちが少なくなるでしょう。ジョブ型雇用だと、スキルを持っていることが前提なので、未経験の場合はどうなっていくのでしょうか。
宮本:ジョブ型雇用だとスキルがないと採用は難しくなるでしょうね。
廣川:そもそもアメリカは、日本のように一斉に就職活動することも少ないし、アメリカの大学には、仕事で必要な技術を専門に学ぶカレッジがあります。日本の大学はユニバースに近いけれども、アメリカの場合は、自分が望む仕事があればカレッジに入学します。
角丸:日本の大学は入学するときが大変、海外は卒業するときが大変といいますが、それは、どれだけ働くのに役に立つことを学んだかどうかが問われるからです。日本のように、とりあえず大学を卒業すれば就職できるというわけではありません。
廣川:アメリカの企業に大学を卒業して就職するときに、職歴がないから、みんな社会活動、いわゆるボランティア活動を記載します。そのためアメリカにはボランティア活動を斡旋する企業があるほどです。
田口:とにかく欧米のほうが、働くことに関しては厳しい。それが多分ジョブ型雇用ということでしょう。日本の場合は何となくメンバーシップ型雇用によってどこかに潜り込めるっていうゆるさがあります。そのへんの違いですね。
重川:以上で、本日の勉強会を終わります。

※2  全国の小中学生の不登校率

文部科学省が2023 年10月に「令 和4 年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」結果を公表。調査結果によると、小・中学校における不登校児童生徒数は299,048人
(前年度244,940人)であり、前年度から54,108人(22.1%)増加し、過去最多となった。在籍児童生徒に占める不登校児童生徒の割合は3.2%(前年度2.6%)だった。