はじめに

サイバー攻撃が日々巧妙化する中、企業や組織が直面するリスクはますます増えています。
そのような状況で重要になるのが「インシデントレスポンス」という考え方です。インシデントレスポンスとは、サイバー攻撃やシステム障害といったセキュリティインシデントが発生した際に迅速かつ的確に対応し、被害を最小限に抑えるための一連の活動を指します。

この記事では、インシデントレスポンスの必要性と具体的な手順について解説します。
企業や組織のセキュリティ対策を検討する際の参考にしてください。

このような方へおすすめの記事です
 ・インシデントが起きたときの対応方針について知りたい方
 ・自社のセキュリティ対策について見直したい方

インシデントレスポンスとは?

インシデントレスポンス(Incident Response)とは、サイバー攻撃、情報漏洩、ランサムウェア感染などのセキュリティインシデントに対して迅速に対応し、その影響を最小限に抑えるための計画的なプロセスです。
インシデントの種類は、ポートスキャンといった攻撃の足掛かり程度のものから、システムの改ざんや流出など実際の被害が深刻なものまで様々です。

JPCERT/CC(一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター)では、インシデントを以下の7種類にカテゴライズしています。

  • フィッシングサイト
  • Webサイトの改ざん
  • マルウェアサイト
  • スキャン
  • DoS攻撃・DDoS攻撃(参考)
  • 制御システム関連インシデント(参考)
  • 標的型攻撃

インシデントレスポンスの目的は、これらのインシデントを早期に発見し、迅速に対応して被害を抑えることにあります。さらに、原因を突き止めて再発防止策を講じることも重要な役割です。

インシデントレスポンスの必要性

インシデントレスポンスの準備が求められる理由とは、まずは何よりも完璧な防御は不可能であるという考え方にあります。
セキュリティをどれだけ強化しても、新しい脆弱性やサイバー攻撃の発生は防げません。また、企業のセキュリティをすべて把握した内部の人間の悪意もまた、完璧に抑止できることではありません。
つまり、インシデントレスポンスが重要な理由は、いつか発生してしまうであろうインシデントに備えて、『最適な事後対応』を準備するためです。

インシデントレスポンスに期待する効果としては、以下のようなものが挙げられます。

被害の拡大防止

セキュリティインシデントは、迅速に対応しなければ被害が拡大する可能性があります。
たとえば、ランサムウェア感染が広がれば、業務の停止や重要データの喪失、情報の流出などにつながる恐れがあります。

組織の信頼性確保

データ漏洩やサービス停止は、顧客や取引先の信頼を損ねる大きな要因となります。
インシデントレスポンスを適切に行うことで、信頼を維持することができます。

法令遵守と規制対応

データ漏洩やサイバー攻撃への対応については、業界ごとに法や規則に義務付けられている場合があります。
インシデントレスポンスを適切に行うことで、違反による罰則などを回避できます。

インシデントレスポンスの具体的な手順

インシデントレスポンスは、通常以下の6つの段階に分けて実施されます。
それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。

準備(Preparation)

インシデントレスポンスの最初のステップは、事前準備です。
インシデントが発生した際に迅速に対応できるよう、以下を整備します。

・インシデントレスポンス計画(IRP)の作成
  インシデント発生時の対応に必要なツールを準備し、手順や連絡体制を文書化します。

・セキュリティチームの編成
  セキュリティインシデントに対応する専門チーム(CSIRT)を設置します。

・訓練とシミュレーション
  定期的な訓練を実施し、実際のインシデントに備えます。

特定(Identification)

インシデントが発生した際、最初に行うべきは被害の識別です。
何が起こっているのか、どのシステムやデータが影響を受けているのかを特定します。

  • ログや監視ツールを使った異常検知
  • インシデントの種類や規模の評価

封じ込め(Containment)

インシデントの影響を最小限に抑えるため、封じ込めを行います。この段階では、被害が拡大しないよう迅速に対応することが求められます。

  • 感染端末のネットワーク切り離し
  • 不正アクセスをブロック
  • 一時的なパッチを適用し脆弱性を修正

根絶(Eradication)

封じ込めが完了したら、インシデントの原因を取り除きます。感染したマルウェアの削除や、不正アクセスの入り口となった脆弱性の修正を行います。

  • 攻撃経路の特定と閉鎖
  • マルウェアの完全な除去
  • ソフトウェアやシステムのアップデート

復旧(Recovery)

インシデント発生前の正常な状態にシステムを戻します。復旧作業では、再発を防ぐための追加措置も必要です。

  • セキュリティ設定の見直し
  • システムの再起動や再配置
  • データの復元

教訓(Lessons Learned)

最後に、インシデントの原因や対応の過程を振り返り、改善策を講じます。この過程は、再発防止と今後の対応力向上に欠かせません。

  • インシデント対応の記録を作成
  • 改善策の実施(訓練計画の更新や新しいセキュリティツールの導入)
  • チーム間での情報共有

おわりに

インシデントレスポンスは、セキュリティインシデントが発生した際の迅速かつ的確な対応を可能にする重要なプロセスです。その必要性は、企業の業種や規模にかかわらず、ますます高まっています。

この記事で紹介した手順やポイントを参考に、自社や組織でインシデントレスポンス計画を整備し、サイバー攻撃やデータ漏洩といったリスクに備えましょう。
事前準備を徹底することで、万が一のインシデント発生時にも冷静に対応できる体制を構築することが可能です。
セキュリティの強化に向けた第一歩を、今日から始めてみてはいかがでしょうか?